投資用不動産のオーナー様からの相談の中で、賃貸していたワンルームマンションにおいて賃借人が自殺または自然死してしまい、このことにより建物の借り手がなかなかつかないので、自殺をしたことに対する損害賠償請求を行いたいという相談があります。

また、これとは逆に、親族である被相続人が借りていたアパートで自殺をしてしまったが、相続人である自分は建物のオーナーから損害賠償義務を負うのか、という賃借人のご親族からのご相談もあります。

それでは、賃借していた物件内で賃借人が自殺や自然死をした場合、賃借人の親族は損害賠償請求を受けるのでしょうか。

また、仮に損害賠償請求を受けるとしてどのような範囲まで損害賠償義務を負うのでしょうか。更に、連帯保証人がいる場合は、連帯保証人も損害賠償義務を負うのでしょうか。

以下では、上記の点について解説をしていきます。

賃借人が自殺をすることは賃借人としての義務を怠ったと判断される

賃借人が自殺をした場合

まず、賃借人が自殺をして賃貸物件のオーナーに損害を発生させた場合、基本的には賃借人は賃貸物件のオーナーに対し、損害賠償義務を負います。

これは、賃借人は賃貸人に対し賃貸物件の価値を毀損しない義務を負うところ、賃借人が自殺をすることによってこのような義務を怠ったことになり、これが債務不履行であると評価し得るからです。

例えば、東京地裁平成27年9月28日判決は以下のように判示しています。

賃借人は,賃貸借契約に基づき,賃貸借の目的物の引渡しを受けてからこれを返還するまでの間,善良な管理者の注意をもって当該目的物を使用収益すべき義務を負う。

そして,賃貸借の目的物である建物の内部において賃借人自殺をした場合,通常人であれば,当該建物の使用につき心理的な嫌悪感が生じるものであることは明らかであり,かかる事情が知られれば,当該建物につき賃借人となる者が一定期間現れなかったり,適正賃料よりも相当低額でなければ賃貸できなくなることになるものといえるから,当該賃借人が当該建物内において自殺することは,当該目的物の価値を毀損する行為に当たることは明らかであり,賃借人の善管注意義務に違反するものというべきである。

このように、賃貸物件内において自殺をした場合、賃借人が貸室内で自殺をしたことが善管注意義務違反にあたるとして、賃貸人から損害賠償請求を負う可能性があります。

連帯保証人も賃借人の自殺による損害賠償請求に対する支払義務がある

なお、上記裁判例において、賃貸借契約の特約として、賃借人が負担する一切の債務を連帯保証人も負担する旨の特約がある事案においてではありますが、賃借人の自殺による損害賠償義務を連帯保証人も負う旨判示しています。

したがいまして、賃貸人から連帯保証人に対して賃借人が自殺をしたことに基づく損害賠償請求を受けた場合は、連帯保証人としては、これに応じる必要がでてきます。

賃借人が自然死をした場合は、損害賠償責任を負わない可能性が高い

これに対し、賃借人が貸室内で自然死をしてしまった場合は、自殺の場合とは異なり損害賠償義務を負わない可能性が高いと言えます。

自然死の場合は、自殺と異なり自らの意思で死亡した場合でなく、また、通常生活するうえで自然死をすることは当然にありうるためです。

なお、東京地裁平成19年3月9日判決は以下のように判示しています。

そもそも、住居内において人が重篤な病気に罹患して死亡したり,ガス中毒などの事故で死亡したりすることは,経験則上,ある程度の割合で発生しうることである。そして,失火やガス器具の整備に落度があるなどの場合には,居住者に責任があるといえるとしても,本件のように,突然に心筋梗塞が発症して死亡したり,あるいは,自宅療養中に死に至ることなどは,そこが借家であるとしても,人間の生活の本拠である以上,そのような死が発生しうることは,当然に予想されるところである。したがって,老衰や病気等による借家での自然死について,当然に借家人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできないというべきである。

賃借人が自殺をしたことによって損害賠償義務を負う範囲

それでは、仮に賃借人が賃借物件内で自殺をした場合に損害賠償義務を負うとしても、連帯保証人または賃借人の相続人は賃貸人に対し、どのような範囲で損害賠償義務を負うのでしょうか。

まず、賃貸用物件のオーナーとしては、賃借人が自殺したことによって他の希望者に貸せなくなった、または、自殺があったことにより従前どおりの賃料では貸せないため、賃料を減額して貸すようになったとして、連帯保証人らに損害賠償請求をすることが考えられます。

この点について、前述の東京地裁平成27年9月28日判決は以下のように判示しています。

 賃貸借の目的物である建物の内部において賃借人自殺をした場合,通常人であれば,当該建物の使用につき心理的な嫌悪感が生じるものであることは明らかであり,かかる事情が知られれば,当該建物につき賃借人となる者が一定期間現れなかったり,適正賃料よりも相当低額でなければ賃貸できなくなることになるものといえるが,賃料額を低額にせざるを得ないのは,建物内での自殺という事情について通常人が抱く心理的嫌悪感に起因するものであるから,心理的嫌悪感は,時間の経過とともに自ずと減少し,やがて消滅するものであること,また,本件・・・号室は,単身者ないし2人向けの1Kのアパートであり,その立地は,東京都・・・区(東・・・線のa駅周辺)にあり,交通の便も比較的良く利便性も比較的高い物件であることが認められることにあることを考慮すれば,原告の逸失利益については,当初の1年は賃貸不能期間とし,本件・・・号室において通常設定されるであろう賃貸借期間である2年間(本件賃貸借契約も同様である。)は,本件賃貸借契約の賃料の半額でなければ賃貸できない期間とみるのが相当である。

このように同判決において、心理的嫌悪感が時間と共に経過することや、物件自体が借り手がつきやすいものであることを理由に、自殺後の1年間についてはその期間を賃貸不能期間として、その期間の賃料が自殺によって生じた損害であり、それ以降の2年間については賃料の半額が、自殺によって生じた損害であると判示しています。

自殺後に影響を受けた賃料額のうち、どの範囲まで損害賠償請求が認められるかについて、上記裁判例では3年間分の賃料に影響があったとしていますが、この範囲については裁判例によってまちまちになっています。

終わりに

以上、貸室において自殺・自然死した場合における損害賠償について解説をいたしました。

自殺をすることによって賃借人の遺族に損害賠償義務が発生してしまいますので、この点からも自殺をするのは賃貸人、賃借人、家族のいずれの立場からも望ましくないと言えるでしょう。

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